「ね?ツバサ、今から演じてよ」

「!……へ?」

(おう)を今、ここで、僕の目の前で演じてくれない?」

「!!っ……えぇぇッ?!」

まさかの言葉に、絶対にこの姿に似合わない変な声が出てしまった。

「む、無理です……(と、言うか嫌です)」

「何で?」

「な、何で、って……」

「舞台に立つ可能性もあったんだから、観客の前に立っても恥ずかしくないようには仕上げてあるんでしょう?」

「う、っ……」

それは、そう……なんだけど。

大勢の観客を前にするより、ミライさん一人の前で演じる方が緊張するーー。

そう、言ったら、笑われそうだった。

目の前でいつも揶揄(からか)うように微笑ってるこの人は知らないだろうけど、俺にとってずっと目標にしてきた憧れの人なんだ。

そんなミライさんを前にして、中途半端な姿を見せたくない俺の気持ち……分かんない、よなぁ?

やるんなら、こんなひと任務終わって気が抜けている今じゃなくて、しっかり気持ちを整えて俺は挑みたかった。

そんな想いから演じる事を渋っていると……。

「ーーじゃあ、こうしよう」

ミライさんは再び口を開いて、ポケットから何かを取り出すと、掌に乗せて俺に見せる。

ーー……え?

目を疑う。
そこにあったのは、プラチナ素材の六角形の中にチェス駒のような一角獣(ユニコーン)が刻まれた、バッジ。夢の配達人最高位の証、白金バッジだった。
しかも、一角獣(ユニコーン)の中に刻まれた数字は【1】。かつては俺の父さんが所有していた、俺が1番欲しいバッジだ。

「これを下剋上にしてあげる」

突然の展開に頭がついてこない俺に、ミライさんが言葉を続ける。

「お前が僕を驚かせるような演技を見せてくれたら、この白金バッジを譲るよ」

「っ……!」

顔を見ると、ミライさんは微笑ってた。
いつもと変わらない様子だけど、揶揄っているのか、冗談を言っているかの区別くらいはつく。
今は本気だ。この人は冗談抜きで俺に言ってる。