担がれて、攫われて、暫しの時間が過ぎた。
千秋楽は夜の部だったから、外はすっかり暗くてもう夜だ。

劇場からは結構離れたし、いい加減この体勢も疲れてきたし、そろそろいいかーー。

「いい加減放してもらえませんか?もう気付いてるんでしょう?俺が偽物だって」

俺は担がれたまま怪盗に尋ねた。
見た目だけならいくらでも効く誤魔化しも、触れられたり、ましてや担がれたら完全にアウト。骨格や筋肉、体重で俺が男である事はすでに怪盗にバレバレの筈だったから……。

でも。
それでも、俺をここまで攫ってきたと言う事は、考えられる事は一つ。こいつは初めから、俺を狙っていたんだ。
そして、俺にはすでにこの怪盗が誰なのかの目星が付いている。

「……もういいですよ。
だからお願いします。放して下さい、"ミライさん"」

俺が名前を呼ぶと、ようやく歩みが止まった。
辿り着いていたのは人気のない、薄暗い船着場。観光客が利用するメインの大きな船着場ではなく、住民の漁師達が使う場だからこの時間帯は滅多に人が来ない場所だ。

「な〜んだ、つまらないの」

まるで子供が嘘を暴かれたような声が聞こえたと思ったら、ようやく身を地面に降ろされ、解放された。
すると。ドラキュラのような服装で黒マントを風になびかせながら仮面をゆっくり外すミライさんと、目が合う。

「気付いてたんだ。さすがだね、ツバサ」

つまらないの、と言いながらも、俺が正体を見破った事を何処か喜んでいるような笑顔。
この笑顔、本心が読めなくて少し苦手だ。ミライさんは俺が幼い頃から面倒みてくれて、夢の配達人の師匠をしてくれたけど、未だに謎が多い人。

「ミライさんがナツキさんに、今回の任務内容を頼んだんですか?」

「そうだよ。君の今の実力が知りたくて、ね。
でも、君は一体いつから気付いてたの?ナツキが何かヘマした?」

「いえ。ナツキさんが怪盗と繋がっている事は、最後まで確信は持てませんでした。……ただ、……」

「ただ?」

「公演初日の前夜にコハルさんが千秋楽を演じたいって俺に言ったんです。その時、間に入ってくれたナツキさんがコハルさんの身を案じると言うより、俺が舞台に立たない事が困るような……。そんな感じに思えて」

ナツキさんはコハルさんを誰よりも大切に想ってる。
それなのに、
『今回の事は、お前だけの問題じゃないんだ』
そう、どちらかと言うと俺の事を心配している感じに聞こえたんだ。