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(おう)(げつ)が舞台上に戻って、全ての役者達が出揃った。
いよいよ千秋楽の締め、コハルさんの挨拶。
コハルさんは一歩前に出ると、中央にあるスタンドマイクの前に立ち話し始める。

「皆さん。
本日は私達の舞台を観に来て下さり、本当にありがとうございました!」

コハルさんのお礼の言葉の後に、他の役者達も「ありがとうございました」と声を揃えて頭を下げる。
飛び交う拍手。でも、役者達が顔を上げると、観客達は再度コハルさんの言葉を聞く為に静まり返った。

「すでにご存知の方もいらっしゃるでしょうが、私はこの公演を最後に、(おう)の役を卒業しなくてはなりません。
15歳でオーディションに合格して、初めて(おう)を演じて、あっという間の10年。いつの間にか、(おう)の年齢を追い越してしまいました」

コハルさんが笑いながらそう言うと、お客さん達も一緒に笑ってくれていた。
その暖かい雰囲気に、胸がジンッてした。

「楽しくて、幸せな10年でした。余りにも幸せ過ぎて、次の役へ進むステップアップは喜ばしい事なのに、最初はちっとも素直に喜べませんでした。
……でも。自らが望んだ、好きな人生(みち)を歩んで来られた私がそんな事を言っていてはいけないと、今は思います」

そう言うと、コハルさんは一度目を閉じて……。気持ちを入れ替えるように深呼吸して、目を開けると、再び口を開く。

「私の両親は、私が7歳の時に事故で亡くなりました。それから幼い私を育ててくれたのは、8歳上の兄です」

その言葉に、観客席がほんの少しザワついた。
上手側のボクの側で、一緒に挨拶を聞いていたナツキさんもピクッと反応する。

「兄は頭も良くて、運動神経もよくて……。ほんと、妹の私が言うのも何なんですが、出来が良くて……。将来有望で、どんな人生(みち)でも歩む事が出来たでしょう。
……っ、でも……それなのに、ッ……全てを諦めて、私を育ててくれましたっ。
私を施設に預けて、好きな人生(みち)を歩む事も出来たのにっ……、それ……なのにッ……」

途切れ途切れになる言葉。歪む顔。
コハルさんの涙が、ポタポタと舞台上に落ちた。
そしてそれと同時に、ナツキさんの涙も流れ落ちる。