(おう)
さぁ、出ておいで。みんなが君を待ってるんだよ!」

先に舞台上に出た(げつ)(おう)を呼ぶ。
上手側を見て手を差し伸べる姿に、こちら側に居るボク以外の裏方のみんなが絶望しかけた。

……が、…………。

「ーー!!
なんだ。そっちに居たのか、(おう)

台詞と演技が続いた。
そう言った(げつ)は微笑むと、正面の観客席側を見た。そして、手を伸ばす。

「ほら、早くおいで!」

その台詞と演技に観客も、そしてボク達も舞台袖からそっと顔を出し(げつ)の手を差し伸べた方向を見た。

すると、観客席の1番後ろ側にある大きな扉がいつの間にか開いていた。観客が出入りに使う、その場所。
そこに立って居たのは、(げつ)に呼ばれて幸せに満ちた笑顔を浮かべる(おう)

成功だーー!!

まさかの演出に観客席から大歓声が上がる。
お客さんは全員立ち上がり、中央の通路の方を向きながら拍手。その道は、まるで結婚式のバージンロードみたいだった。
駆け足で進んで行く(おう)を舞台から降りた(げつ)が迎えに行き、二人は出逢うと幸せそうに微笑みながら抱き合った。

物語りには描かれていない二人のハッピーエンドだが、その光景は見守ってきた人達が1番観たかったシーンに違いない。

『最高の仕事するから。最後まで見てて』

ツバサの言葉通りだった。
おそらく彼は、怪盗が狙うのが千秋楽のカーテンコール時だと最初から睨んでいた。
そして、最後シーンが終わった後、僅かな暗転の間にコハルさんを別の通路から逃し入れ替わったんだ。彼女を護りつつ、自分で演じたいと言った願望を叶え、誰も知らない間に(げつ)役にも指示。全ての一連を違和感なく創り上げて、感動のラストをカーテンコールの演出に仕立て上げたんだ。

……参ったな。
こんなに"すごい"って目の当たりにすると、本当に惚れちゃうよ。

これ以上、心を震わせないでほしかった。
今ならまだ、ただの憧れだけで終われる気がした。

でも、ボクが恋に落ちる……。
いや、ツバサに落ちるカウントダウンはもう始まっていた。