こいつが、予告状を送ってきた怪盗ーー?

上手の舞台袖だけ、空気が一変する。
ボクや裏方の人達が突然の出来事に驚く中。さすがは夢の配達人の金バッジと言うべきか、ただ一人ナツキさんが怪盗相手に身構える。

けれど、タイミングが悪い。
別場所から音響や照明を担当している人達、そして下手側にいる人達は、上手側で起きている事態には気付かない。当然、観客も気付かないであろう。
曲がかかり、照明がつき。
ものすごい拍手と歓声の中、カーテンコールが始まってしまった。

そこでみんながハッとして隙が出来る。
カーテンコール開始に気を取られてしまった一瞬の合間に、コハルさんを担ぐように抱えた怪盗はバッと煙幕を放つと姿を消した。

「っ……マズい、やられたッ」

煙幕が徐々に晴れる中、咳き込みながらナツキさんが声を最低限に抑えながら叫ぶ。
そして裏方のみんなも慌て出す。

「いけないっ、カーテンコールは中止だ」

「すぐに幕を降ろせッ……!」

その様子見て、言葉を聞いた瞬間。
ボクの心の中にある言葉が木霊する。

『"何が起こっても"、最後まで続行してほしい。
……お前にしか頼めないんだ。頼む』

ツバサは、あの時そう言っていた。
それに、さっきのコハルさんはーー……。

『あとは任せたから』

ーーあれは、ツバサだ。

直感でそう感じたボクは、幕を降ろそうとする裏方の人を必死で止めた。

「大丈夫ですっ……!」

「ジャナフ君っ?
何言ってるんだ、このままじゃ(げつ)役が舞台に……」

「ーーこのままで大丈夫ですっ!」

攫われたのはコハルさんじゃなくて、変装したツバサーー。

そう、みんなに言い切る証拠はない。
けど、自分の直感が間違っているとは微塵も思わなかったボクは、裏方さんを掴む手を放さなかった。


止められなかったカーテンコールは進む。
下手側から登場した(げつ)役が手を差し伸べながら名を呼んで、上手側から(おう)役であるコハルさんが登場する予定だった。
でも、今コハルさんは上手側にはいない。

ボクは、ツバサを信じてるーー。

心の中でそう叫んだ。