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幕が降りても鳴り止まない、拍手と歓声ーー。

千秋楽の最後のシーンが終わった。
これまでの公演、どれも素晴らしかったけど、やっぱり聞いていた通り今日はまた一段と素晴らしく感じた。
舞台袖で観ていたボクでも涙ぐんでしまった位だから、観客席で観ていたお客さんの感動はきっとそれ以上であろう。

「さ、最後の仕事だ。カーテンコールに応えるぞ!」

「はいっ」

カーテンコールとは、観客が演劇などの幕切れに喝采(かっさい)して出演者を再び舞台上に呼び出す事。
いつもの公演でもそれに応えて、役者達が舞台上に出揃って手を振ったり頭を下げたりして来たが、今日は特別。千秋楽という事で、主演のコハルさんからの挨拶が行われる予定だった。

大盛況だった舞台の大事な締め。
簡単に舞台上を整え、照明の色や流す曲をスタンバイする。
順調に終わりを迎えられそうで、みんなすっかり安心と喜びが溢れていた。


「コハルさん、素敵な舞台でした。カーテンコール、楽しんで来て下さい」

カーテンコールのスタンバイ中。ボクの居る上手側(観客から見て右手側)の舞台袖から登場する予定のコハルさんに声を掛けると、にこっと優しい笑顔を返してくれる。
ボクは、その笑顔を可愛いと感じて少しホッとした。

だって、おかしいもん。いくらツバサが綺麗な顔立ちだからって、女装してるからって、女の子よりも可愛く見えるなんて……。

冷静に考えて、それはおかしな感情。
だから、安心したかった。舞台終わりで、汗でメイクが流れ落ちてほぼすっぴん状態のコハルさんを可愛いと思える事で、同性のツバサに感じてしまった感情を否定しようとしていた。

ツバサの事は好きだけど、それは友達に感じる好きだってーー。

……でも。

「あとは任せたから」

ーー……え?

コハルさんがボクにしか聞こえない小さな声で、言った。
そう言った彼女を見て、感じる。

ツバサーー……?

ボクが目の前のコハルさんにそう感じた直後だった。

「ーー予告通り、摘みに参った」

「!っきゃ、あッ……!」

それ、は突然やって来た。
何処から現れたのか、不気味な白い仮面を着けて、長い黒いマントを身に纏った奴が、一瞬でコハルさんを背後から羽交い締めするように捕らえて、口を手で塞いでいた。