……
…………。

「……これでよし、です。
暫く痛むかも知れませんが、我慢して下さいませ」

「ありがとう、ノゾミちゃん」

ミライさんが去った後、患者さんに掴まれて痛めた腕の手当てをノゾミちゃんがしてくれた。医療の資格は持っていない筈なのにその手当は完璧で、手際もいいし、包帯の巻き方も綺麗。
天は二物を与えず、って言うけど可愛いくて女の子らしい見た目、器用で頭も良くて、おまけに男性に引けを取らない強さを持った(更におっぱいも大きい)彼女。

羨ましいなーー。

先程メスを突き付けて患者を追っ払ってくれた勇ましい姿を思い出して、憧れを抱く。

「……私も、何か一つくらい武術を身に付けておけば良かったかな」

「え?」

「さっきのノゾミちゃん、すごく格好良かったから」

「ふふっ、ありがとうございます」

私が素直な言葉を口にすると、ノゾミちゃんは嬉しそうに微笑った。

本当に羨ましかった。
『お前が居るなら安心だね』
妹とは言え、大好きな男性(ミライさん)に認めてもらえている彼女が……。でも、ノゾミちゃんは言った。

「私の場合は、強くならなきゃいけませんでした。
生まれた時からもう父の目はほとんど見えなくて、普通の生活は問題ありませんが、仕事が仕事なだけに盲目では大変な事だらけで……、……」

そう言った後、続く言葉はなかなか出て来なかった。
その理由は、昔を思い出しているような彼女の悲しそうな瞳が物語っているようで……私はハッとした。

「ごめんね」

「!……え?」

「あ、ううん。っ……なんか、無神経な事を言っちゃった気がしたから……」

女の子に向かって、"強いのが格好良い"なんて良くなかった言葉かも知れない。
それに、褒めたつもりだったけれど、あの言葉はミライさんに認められている彼女への嫉妬の感情が僅かにあったのも事実だから……。

もどかしい恋をしているのは自分のせいなのに、上手くいかない事を誰かに妬んでいる自分が嫌だ。
罪悪感に襲われて俯いていると、そんな私にノゾミちゃんは「ふふっ」と明るく微笑ってくれた。