「いいじゃん、ヒナタさん!一緒にご飯行きましょ〜?」

「ご、ごめんなさい。そういうのはちょっと……」

夢の配達人隠れ家にある医務室。
任務中に負ったという傷の手当てを済ませると、担当した男性患者さんから食事のお誘い。そのあまりのしつこさに、私は困っていた。


看護学校を無事に卒業して研修期間を終えて、目標としていたこの夢の配達人の隠れ家で働く事が決まって本当に嬉しかった。
父ヴァロンが元夢の配達人であった事、そして幼い頃弟のツバサも「夢の配達人になる」って言い出した時から、私の夢も自然と定まっていった。夢の配達人を支える人になりたいと思ったし、何より歳の離れたツバサ()を側で見守ってやりたいと思った。

ツバサは幼い頃、父方から受け継いだ不思議な能力(ちから)に悩まされて情緒不安定な子だったから……。普通の人には見えない存在に悩まされて、怯えて、パニックを起こして、倒れたのは一度や二度とじゃない。
それに、珍しい血液型であるツバサは普通の人よりもちょっとした怪我が致命的になったりする。輸血の血が手に入りにくい彼の場合、少しでも処置が遅れて大量の血を失えば死。だから私はどんな時でも素早く判断し、適切な処置を出来る看護師になりたかった。

……それから。
私にはもう一人、救いたい人がいるーー……。


「!!ーーッ、いた……っ」

「ったく。こっちが優しく誘ってりゃ、いつまでも調子こいてんじゃねぇぞ」

左手を突然掴まれて激痛が走った。
誘いをなんとか上手く交わそうと試みたが、逆上した患者が私の手首を掴んで自分の方へと引き寄せたのだ。その衝撃でキャスター付きの台が揺れて、上に置いてあった治療道具が音を立てて床に散らばる。

「は、離して下さいッ……」

「手荒な事はしたくなかったが、お前がいけねぇんだよ。俺がこんなに誘ってやってるのに、お高く止まりやがって」

ゾクリと悪寒が走る。さっきまで笑っていた患者の目付きが怪しいものに変わっていたからだ。
今日はホノカさんがお休みの上に他の看護師達はすでに帰宅していて、残っていたのは夜勤の自分だけ。
廊下を一歩外に出れば隠れ家の関係者に会う事も出来るが、腕を強く掴まれていて……。何より突然の恐怖に脚も震え、上手く大声も出せそうにない。