その瞬間、ボクの中に僅かにあった

ツバサは自分と同じなんじゃないか?
ツバサは自分と似てるところがあるんじゃないか?

って考えは、なくなった。

身内に立派な存在がいる事に、引け目を感じていた自分ーー。

ツバサは自分の父親の事をボクに一度も話してくれた事がない。
だからボクも聞かなかった。言いたくないんじゃないか?って、勝手に思ってて……。

でも、違うんだ。
ツバサは伝説の夢の配達人の息子だけど、ツバサの中でそんなものはきっと関係ないんだ。
お父さんの事も含めて自分は自分なんだと全てを受け入れて、レノアーノ様への想いって言う自分の信念をしっかり持ってこの世界で生きてる。


「……。やっぱり、100点満点だよ」

再び舞台に立ち稽古を始めるツバサを見て、苦笑いと溜め息と共に思わずそう言葉が漏れた。
すごくカッコ良くて眩しくて、出逢ったあの日に彼に感じた気持ちは間違いではなかったのだと改めて感じる。

ボクを変えてくれる人生の相棒(パートナー)ーー。

憧れを通り越した誰よりも心を弾ませてくれるその存在を、どう言葉で表していいのかこの時のボクには分からなかった。

ずっと見ていたい。
ずっと傍にいたい。
君の1番傍で輝く姿を見る事が出来る時間が、ボクにとって何よりも大切な宝物になっていくんだ。


「あのっ、お願いがあります!」

弾む心に突き動かされるように、言葉と身体が動く。

「ボクもここに置いてもらえませんかっ?
絶対に邪魔はしません!掃除でも雑用でも何でもします!っ……だから、お願いしますっ!!」

そう言ってナツキさんに頭を下げた直後、ボクは自分の行動にハッとした。
こんなに必死に自分の感情を訴えた事は、久しくなかったかも知れない。「お前には無理だ」って否定の言葉を恐れて、いつしか"無駄"だと諦めていた自分。いつも言葉よりも先にその感情が出て来て、何も出来なくなっていたのに……。

やってみなきゃ分からないーー。

ツバサ。
諦めかけた時にいつも君が掛けてくれたその一言が、もう一度ボクに自信を持つ勇気をくれていた。
そしてその勇気が、また次の自信へステップアップしていく。

「よし!
なら、団長さんに許可をもらいに行こうか?」

その声に顔を上げると、そこにはナツキさんの笑顔があった。

「ここに居たいのなら僕の許可ではなく団長さんの許可が必要だからね。今から行くかい?」

優しい言葉と優しい笑顔。
ボクも自然と微笑っていた。

「はいっ!よろしくお願いします!」

キラキラキラキラと輝く日々。
ボクの毎日を変えてくれたツバサは、誰が何と言おうとすでに最高の夢の配達人だった。