「ツバサ。早速なんだが、このまま作戦会議に移ってもいいか?」

「はい」

「実は、今回の予告状の件は団長も知っているんだが……」

そう言いかけて言葉を濁すナツキさん。その表情を見てピンッとくる。

「舞台には絶対に穴をあけたくない、という事ですか?」

「!……ああ。その通りだ」

予想のついた状況を口にすると、ナツキさんは浮かない表情で頷いた。

まあ、そうだろうな。
『月姫の祈り』はこの国では1番人気があると言っても過言ではない舞台だ。毎年8月末に1週間公演し、31日の千秋楽のチケットは売り出したら即完売。
そんな大人気の舞台を、本気かどうか分からない怪盗の予告状で中止にする訳がない。
それに……。

「私もっ……同じ気持ちなんです!
っ、……護ってほしいとお願いしておいてなんだ、と思われるかも知れませんが……。この舞台は、特別なんですっ」

コハルさんは胸の辺りで自分の手を握り締めながら、俺を真っ直ぐ見てそう言った。

「この舞台があったからっ……私は、輝く事が出来た。だからっ……楽しみにしてくれているお客さんを、ガッカリさせたくないんですっ」

声も、手も、微かに震えていた。
本当は怖いに違いない。見知らぬ人物から誘拐する、と宣告されて……。
でも、それでも自分の事よりも舞台の事、観客への想いを必死に俺に訴えていた。

本当は舞台を中止にするか、代役を立ててコハルさんを隔離して護るのが1番最適の方法だ。
けど、俺は人の夢を叶える夢の配達人。だから、コハルさんの望みも叶えつつ護れる方法を必ず見付ける。

「分かりました」

「!……え?」

「多少妥協して頂く面はあると思いますが、団長さんとコハルさんの要望を取り入れた策を考えます」

「っ……そんな事出来るのか?ツバサ」

驚いた表情で尋ねてくるナツキさんに、俺は微笑んで言葉を続けた。

「やってみせます。
そして、ついでに……その怪盗、捕まえましょう!」

「!……。っ、それはまた……大きくでたな」

「そうすれば、もう次から"怪盗(そいつ)"に怯えなくてもいいでしょう?」

そんな事が出来るのかーー?
俺の言葉に、ナツキさんとコハルさんはそう言いた気な表情。
でも、俺はやる気と自信に満ち溢れていた。

「その為には団長の許可と、コハルさんに協力してもらう必要があります」

「?……私に?」

「はい、お願い出来ますか?」

「は、はい!勿論ですっ」

公演初日の8月25日まではあと三日。
一分一秒でも時間の惜しい俺はすぐさま動き出した。