「ううん、いいの!
ツバサが元気なら、それでいい!」

そう言う彼女の笑顔は、本当に女神なんじゃないか?って疑う位に眩しくて綺麗で、俺の心にあった罪悪感を()(さら)うように消してくれた。
その笑顔につられて俺も思わず微笑むと、レノアは更に嬉しそうに微笑う。
特別な言葉がなくても、こうして彼女と笑って過ごせる時間が俺はやっぱり心地良くて好きだ。

「道中、気を付けてな」

「うん、ありがとう。ツバサもね」

「ああ」

居心地が良過ぎて、離れたくなくなるーー。

けど、そんな事は言える筈もない。
「気を付けてな」以外、気の効いた言葉も見付からない。
ただ黙って見つめていると、一瞬俺からフッと目を逸らしたレノアが言った。

「ね、ツバサ。少し……屈んで?」

「?……屈む?」

その言葉に「何だ?」と思いつつも少し身を下げた瞬間だった。
一歩前に踏み出して近付いて来たレノアが、俺の服の胸元辺りを握る。そしてその直後に右頬に感じたのは、柔らかく暖かい感触。

ーー……へ?

まさかの事態に、暫し思考が止まる。

……、……
……レノアが、俺の頬にキス、した。

俺がようやくそう理解した時。その時すでに唇を俺の頬から離していた彼女が、自分の頬を赤く染めながら言った。

「じゃあ……。また、ね」

大好きーー。

口に出された言葉とは異なる本音。
レノアの言葉に隠された心の声が、俺にはハッキリと聴こえてしまった。
その、素直な想いを口にしない彼女の心に胸をキュッと掴まれて、俺も思わず言ってしまいたくなる。

俺も、大好きだーー。

けど、その言葉は今はまだ言えない。
だから俺は、背を向けて馬車の方へ歩んで行こうとしている彼女の手を取って伝える。今の全ての想いをーー……。

「来年の今は、「こんな事があったな」って……一緒に笑おう。なっ?」

これが、今の俺達が交わせる精一杯の約束。
俺に勇気と力をくれた言葉を返すと、振り返ったレノアが瞳を潤ませた笑顔で頷く。