「ボクの本名はね、ジャナーフ・ジ・ドルゴア」

その一言に、ツバサが足を止めた。その気配にボクも足を止めて、振り返って言葉を続ける。

「ドルゴア王国の第四王子。君が今、レノアーノ様を護る為に勝負しているサリウス王子の弟なんだ」

「……」

「黙ってて、ごめんね」

「……」

苦笑いのような、中途半端な笑顔しか作れないボクを、ただただツバサは見つめていた。大好きな白金色に見つめられる事が、こんなに怖い日が来るとは思っていなかったよ。
でも、しっかりと見つめ返して伝える。

「初めは、何も知らなかった。
でも途中で、"まさか"って思って……確信に変わって……、……何度も、何度も、言おうと思った。……っ、でも…………」

けど、それでも言えなかった。
その理由はーー……。

「っ、ツバサに……嫌われるのが、怖かったんだッ」

そう、それが1番の理由だった。
兄の味方だからじゃない。
間者だと、疑われる事が嫌だったからじゃない。ただーー……。

「ツバサと一緒に居られなくなる事が、っ……嫌だったんだっ」

考えただけで、想像しただけで胸が痛くなった。
母さん以外の誰かに、自分がこんな感情になれる日が来るなんて思わなかった。
苦しい、想いを乗せた言葉と一緒に、堪えていた涙が溢れ落ちる。

世界はこんなに広いのに、母さんを失った瞬間から自分には何もなくなった。煌びやかな生活の中なのに、ボクの心に光を灯してくれるものなんて何もなかった。
優雅な生活も、広い部屋も、立派な服もいらない。ただ、語り掛けてくれて、微笑み掛けてくれて、寄り添ってくれる人が居ればそれだけでよかった。

ツバサの存在こそが、ボクの新たな光だったーー。

眩しいのに、自分を遠ざけるんじゃなくて、引き寄せて暖かく包んでくれるような優しい光。
居心地が良くて、もう少し、もう少し、って、欲が止まらなくなる程に、ボクは君を好きになった。嫌われたくないと思ってしまった。