「レノアーノ様。
そなたはこの場所から決して動くでないぞ?」

「!っ、え?」

「良いの?」

わしが念押すと、レノアーノ様は驚いた表情をしながらもゆっくり頷いた。それを見て微笑むとわしは手を放して、レノアーノ様を自分の背後に隠すようにして牢の入り口の方を見つめる。
すると、そのタイミングで現れたのはわし等を攫った数人の賊達。

ーー時は来た。

わしがそう思うと賊達は牢の鍵を開け、ニヤけ顔でわしとレノアーノ様をジロジロと舐めるように見つめる。その表情から、彼等が何を企んでいるのかなんてすぐに察する事が出来た。

「へへっ、お嬢ちゃん達。
ここでじっとしてるのも退屈だろう?オレ達と遊ぼうぜ」

予想通り、下衆な男の言葉。
そんな奴等を見てわしは一歩前に出ると、ニッと微笑って見せる。

「うむ、()いぞ!
確かに牢の中は退屈じゃ。望み通り、相手になってやろう」

わしがそう言うと、賊達は一瞬驚いた表情をした。が、すぐに馬鹿にするように笑った。愚かなのはどちらかも知らずに……。

「ぷっ、お嬢ちゃん言うねぇ。オレ達を楽しませてくれるんかぁ?」

「そいつは、楽しみだなぁ〜」

わしに近付き、手を伸ばしてくる奴等。

ほんに、馬鹿者じゃーー……。

女子供だと油断して手足を拘束しなかった時点で、この愚か者達の運命は決まっていた。

「……ああ。楽しませてやろう」

血が燃えるーー。

わしは近付いてくる賊の懐に飛び込むと奴の腰に差してあった剣の柄を掴み、そのまま抜いて喉元に突き立てた。
一瞬の出来事に剣を突き立てられた奴は目を見開き、周りの賊達の笑いも止まったと思ったら徐々に表情が固くなっていく。

その光景を見て、わしはゾクゾクした。興奮を必死で堪えながら、口を開く。

「我が護衛隊長は厳しくてのぅ、幼少期よりわしをただの少女や主にはしてくれんかったのじゃ」

自分の身は自分でーー……。
そう教えられながらも、普段はずっと側に居て護ってくれた瞬空(シュンクウ)。彼のその教えが、ようやく役立つ時が来た。

「さぁ、もう後悔しても遅いぞ?其方(そなた)達には、全滅の天命が降ると知れ」

そう告げると、わしは剣を握る手に力を込めた。

……
…………。