「っ、……や、……やめてッ……っ」

「……」

「やめ、てよッ……ツバサ!」

俺の両肩を掴むと、ジャナフは震えを必死に抑えようとしながら俺に言った。

「死ん……じゃうよっ?」

「……何が?」

「っ、……セトさんッ!死んじゃうよッ……!!」

その言葉に、俺は笑った。

「あ、ははははっ……!」

何を言い出すのかと思ったら、そんな事かーー。

俺は、言葉を返す。

「……それが?」

「!っ、え……?」

「別にいいじゃないか。当然の報い、だろう?」

何が悪いのか、分からない。
だって、先に(けしか)けたのはセト(向こう)じゃないか。

「俺は、当然の事しかしてない」

「っ……ツ、バサ」

俺が答えると、溢れ落ちる涙が手に滴った。でも、ジャナフが何故泣いているのか、俺には分からなかった。
こんな事をしても、蓮葉(レンハ)やレノアが攫われた事に対して何の解決にもならない。それなのに、そんな事も分からなくなる程にこの時の俺の心は能力(ちから)に支配され、ただセトに天罰を下す事しか頭になかった。

このまま天使の能力(ちから)に支配されたままだったら、俺は間違いなくセトを殺めていただろうーー……。

けど、…………。

「ゆっくりと痛ぶってやろうと思ったが、気が変わった。一思いに楽にしてやろう……」

「ーーダメッ!!」

セトに再び視線を移し、狼達に命じようとした瞬間だった。俺の言葉と行動を遮るようにして、ジャナフがグッと両肩を掴んでいた手に力を込めて離さない。
視線を戻して見ると、ジャナフが強い瞳で真っ直ぐに俺を見つめていた。

ーー……っ、?
……なん、だ…………?

すると、急に、身体が動かなくなって……。俺はジャナフから瞳を逸らせなくなった。ジャナフの瞳を通して不思議な能力(ちから)に押さえ付けされたように、金縛りにあったかのように動けない。