「オレはね、ツバサ(コイツ)が嫌いなんだよ」

「!っ、……嫌、い?」

「ああ。オレは誰よりも、ツバサ(コイツ)が憎いッ……!」

そう言い放つセトさんの瞳は、口元は笑っているのに冷たい。

何故ーー……?

それでも、ボクにはやはりツバサがそんな人に恨みを買うような人物には思えなかった。腑に落ちないボクが見つめたままでいると、それを察した様子のセトさんが語り始める。

ツバサ(コイツ)はね、ずっとオレをコケにしてたんだよ。
その証拠に、自分からはオレに話し掛けて来ない。自分の事は何一つオレに話さない。……辞める時だって、何一つオレに言わなかった」

「っ、……」

そう言ったセトさんを見て、ボクは微かに胸がズキッと痛んだ。
それはきっと、そう言ったセトさんの中に、怒りや憎しみ以外の感情が入り混じっている事に……気付いたから。

「そいつが辞めてから、オレがどんな扱いを受けたか分かるか?何処に行っても「ツバサの代わりに金バッジに昇格出来た夢の配達人」扱いだ」

一言一言、話される度に、想いが伝わってくるんだ。
"悲しい"。"寂しい"って、セトさんの感情が……。

「それでも、いつかは、って。そんな噂なんて消えて行くと思ってたよ。
……っ、けど!!ツバサ(そいつ)は戻って来やがったッ!!」

セトさんは声を上げた。
言葉だけを聞けば、それは勝手に夢の配達人を辞めたのに、また戻って来たツバサに対しての自分勝手さに関しての怒り。

「何食わぬ顔で戻って来て、アッシュトゥーナ家の……。いや、この国の未来の為にサリウス王子と勝負だっ?!ふざけるなよッ……!!」

けど、本当は違う。
セトさんは、泣いてる。

「あっという間にまた注目を集めて、最高責任者(マスター)や周りに助けてもらって……。ッ……何だよっ!ツバサ(コイツ)なんてっ……ただの、親の七光りのクセにッ!!」

怒り、憎しみ、嫉妬……。
その裏には、ツバサに何も言ってもらえなかった悲しみ。頼って貰えなかった寂しさが、確かに詰まっていた。