短剣は構えてる。でも、……。

っ、や、やっぱり……無理〜っ!!

やはり実戦経験が乏しいボクは、間近に迫ってきた獣達の迫力に負けてしまう。剣を振れなくて、飛び掛かってきた獣達をギリギリに交わして逃げ回る事しか出来なかった。
そんなボクから獣達を遠ざけようと、ツバサは地面に落ちていた石を拾うと投げてぶつけて、威嚇して注意を自分に向けようとしてくれる。
けど、その時にピィーッ!と指笛が響いて……。そうしたら獣達は二手に分かれて、ボクとツバサに5匹ずつが狙いを定めだした。指示を出してるのは、もちろんセトさんだ。

っ、こんな事してる場合じゃないのに……!

一刻も早くツバサにレノアーノ様と蓮葉(レンハ)様の事を知らせたいのに、これではラチが開かない。
二手に分かれた獣達は容赦なくそれぞれに飛び掛かってくる。ツバサはさすがだ。獣達の動きを見極めて、得意なパルクールを用いた動きで攻撃を交わし続けていた。
けど、経験不足と先程まで筋トレをしていたボクの体力は限界で……。

「っーー……ぅわッ!?」

ヨロけた所を石に躓いてしまい、地面に尻餅を着いて倒れてしまった。すると、その状況を待ってました、と言わんばかりに獣達がボクの周りを取り囲む。

っ、しまった。
これじゃ、逃げられない……ッ。

唸り声を上げたまま迫ってくる獣達。するとそのうちの1匹が、ダッと地面を強く蹴って飛び掛かってくる姿が目に映って……。ボクは思わず両腕で顔をガードするようにして、ギュッと目を閉じた。……しかし。

ーーガッ……!!!

……
……、……。

……っ、あ……れ?

覚悟していた痛みや衝撃が身に起こらない。
獣が、自分にぶつかり、噛み付いて来ている気配がない。
恐る恐る目を開けて、顔面をガードしていた腕をゆっくり開いていく……。するとーー……。

「ッーー……!!
……っ、ツ……バサ?」

目に映るのは、ツバサの背中。
そして、ボクが名前を呼んだ直後。ツバサは左手で自分の顔面を押さえて、ドサッと地面に両膝を着いた。

「っ、ツバサッ……!!
ツバサッ……ツバサ!大丈ーー……っ?!」

慌てて駆け寄って、顔を覗き込んでハッとする。
地面に両膝と右手を着いたツバサは俯いていて……。顔面を押さえている左手の間からは血が滲んで、ポタポタッと滴り落ちた。