でも、その父さんは、もういない。

『お前がその瞳を持って生まれて来たのには、絶対に何か意味があるんだ。
その能力(ちから)が、いつか必ずお前を助けてくれる。その為にはーー……』

……
…………。

「っ……はぁ、はぁ、………ッ」

ジャナフから逃げるようにして辿り着いたのは、村から少し離れた枯れ木が集う場所だった。
おそらくは、元々は小さな森だったのだろう。雨季が少なく、すっかり枯れ果てた木々達。

けれど、……。

「……っ?!
……なん、だよっ……これっ」

目を疑う。
息が切れた身体を休める為に自分が身を預けて触れた木が、ホワッと暖かさを感じたと思ったら……蘇っていた。
俺が触れた枯れ木だけが、かつて在ったであろう姿を取り戻していたのだ。
水々しい幹に、青々と生い茂る葉。
信じられない現実に、見上げる俺からは全力で走ったからではない汗が、ツゥー……ッと、流れる。

能力(ちから)を使った自覚はない。
しかも、これまでに自分が体験してきた能力(ちから)でもない。
それは明らかに、新たに自分の中に目覚めてしまった能力(ちから)だった。

「……。
っ……はは、何だよ。これ……」

自分の両手を見つめて、俺は笑った。

今と言い、さっきジャナフに触れられた瞬間に視えた映像と言い……。これまで、漆黒の瞳(左目)を塞いでいれば発動しなかった筈の能力(ちから)が、抑えられなくなってきている。

「……、……けてっ」

ああ。
普通じゃなくても、涙は出るんだなーー……。

「っ……助けてよっ。父さんッ…………!」

両掌(りょうてのひら)に落ちる(想い)は、独りじゃ受け止め切れなくて……。ただただ、どんどん、下へ、下へと、落ちて行くだけだった。