「こちらのテントでは夜中にお身体が冷えてしまいます。
私と同室にはなってしまいますが、貸屋でお休みになりませんか?」

それは完全にレノアの優しさだった。
同性である蓮葉(レンハ)の事を心から気遣い、掛けてくれた優しい言葉だった。

……でも、この時。
俺には彼女から感じるいつもの綺麗な音が聞こえなかった。いや、聞こえなくなっていた。

「ーーそれは、村長が了承しての事なのですか?」

その言葉に一瞬の間が出来る。その場に居たみんなが「え?」と言う表情でこちらを見た。
俺のその質問が、と言うより、きっと冷静すぎる冷たい口調だったからだろう。

「……いえ、私個人の考えよ。
私がそうしたくて、独自の判断で言いにきたの」

レノアが正直に答える。
その言葉を聞いて、俺はフッと鼻で笑うと言った。

「軽率な考えと行動ですね。
村での蓮葉(レンハ)様へ向けられる視線に気付かなかったのですか?
村長や村人の了承なくそんな事をして、蓮葉(レンハ)様が貴女の誘いにのり、一緒に居るところを見られたらどうなるのか……分かりませんか?」

シンッと、辺りが静かで冷たい雰囲気になっていく。
でも、俺の言葉は止まらない。

「女神と讃えられ、大切に扱われるうちに周りが見えなくなっているのでは?
貴女が今している事は優しさでも、蓮葉(レンハ)様を助ける行動でもない」

乱れた心の隙間をまるで誰かにつけ込まれたように、悪い、悪い方への考えしか浮かばない。
モヤモヤがそのまま、口から出続ける。

「ただの自己満足。
そして、己の評価と評判を上げる為の行動だ」

レノアがそんな汚い考えで動いている訳ないなんて知りながら、度正当な状況論を上げて、酷い言葉が口から溢れ出した。みんな、驚いている。

「っ……ツバサ?
な、何言ってるの?レノアーノ様がそんなつもりな訳っ……」
「ツバサ様!そのお言葉はあまりにもッ……」

「ーーいいわ!レベッカ、ジャナフ君」

俺の言葉にジャナフとレノアのお付きであるレベッカさんが反論の言葉を発しかける。

けれど、レノアがそれを止めた。
そして彼女は、俺にゆっくりと近付いて来た。