ミライ(あの子)にとってツバサ君は夢。夢の配達人を頑張れる源なのよ。
だから、本当にありがとうっ」

ミライさんがそう思ってくれているのはとても嬉しいし、俺なんかに期待しててくれて有り難い。
でも、その想いを……少しでもいいから姉貴に向けてやってほしい。

ホノカさんの言葉を聞いて、俺はそう思ってしまった。
でも、同時に以前姉貴に言われた言葉を思い出す。

『そうね、嫌われては……いないと思う。
でも、無理よ。ミライさん、好きな人がいるもん』

何とかしてやりたい。
けど。姉貴の言ってる事が本当なら、俺が口を挟む事で逆に姉貴が嫌な想いや惨めな気持ちになってしまうかも知れない。
だから、俺は何気ない会話を続けるしかなかった。

「ミライさん、最近体調は大丈夫なんですか?」

「ええ、最近は大丈夫そう。
あんまり無理しないようには言ってるんだけど……。ツバサ君も知ってる通り、自分で言い出した事や決めた事は誰に言われても曲げない子だから」

白金バッジの夢の配達人であり続けるという事は容易ではない。
一年をかけて各自が行った仕事の成果を最高責任者(マスター)が集計して、毎年3月末の決算で結果が発表される。その際に金バッジの者達よりも成果が劣れば問答無用で降格。
不得意な仕事を無理に引き受ける事はない、と言う優しい(おきて)と同時に、怪我や病気による休みで仕事が出来ない期間も免除はなく、一年の成果の中に含まれてしまう厳しい現実。健康管理も仕事のうちと言う事だ。
つまり、ずっと白金バッジであり続けると言う事は、いかに不得意な事がなくどんな事でも熟す。また、病気や怪我が少なく丈夫で、自分で上手く休暇の管理をしながら仕事を熟していくかが重要。

『ミライがね、あと2、3年で夢の配達人を引退します』

最高責任者(マスター)がああ言っていたと言う事は、現状でもミライさんはあまり体調が良くない時があるのだろう。

今の俺に出来る事は、1日でも早くこの手でミライさんから白金バッジを奪う事だーー。

それがきっとミライさんの為でもあり、また姉貴の為にも繋がるだろうと思った。昔からミライさんを心配して悲しそうにしていた姉貴の心を、少しでも軽くしてやりたい。

……プルルルルッ!プルルルルッ!

そんな決意を改めた時、医務室の内線が鳴った。

……
…………。