「いえ、自信などありません」

「!……なんじゃと?」

蓮葉(レンハ)様が驚かれたように表情を変えた。
ボクも驚く。あれ程ハッキリと彼女の申し出を断っておきながら、自信がない?

それなら、何故そんなに真っ直ぐな瞳をしているの?

その心の問い掛けの答えは、すぐに彼の口から出る。

「私が"必要ない"、と言ったのは"妻の事"。
私には大勢の妻は必要ありません。たった一人だけでいい。
けれどそれは、蓮葉(レンハ)様ではありません。俺には、レノアーノ以外の妻は必要ない、と言う意味です」

ーー……っ。

まるで自分に言われたかのように、ドキンッとした。
普段はあんなに可愛い顔してるのに、一気に男の表情になってそう言うツバサ。
ドキン、ドキン、って、胸の高鳴りが止まない。きっと、この空間にいる全員がそうだった。
さっきまでツバサが否定の言葉を言うと怒っていたおじさんですら、ハッと息を呑んで彼を見つめている。

「全ての下剋上を成功させ、サリウス王子との条件を果たせるかは……正直、まだ分かりません。
けれど、俺の気持ちは変わりません。何があっても、例え彼女の気持ちが変わっても……。俺が一生傍に居てほしい女性は、レノアーノだけなんです」

ーーカッコ良すぎて、どうすればいい?

そういうのは、レノアーノ様(本人)の前でしか言っちゃダメだよ。反則過ぎる。
……ホラ。蓮葉(レンハ)様だって、絶対にそう思ってる。

「っ、……参ったの。これは、想像以上じゃ」

そう言って蓮葉(レンハ)様は笑ったけど、その表情は明らかにツバサに恋していた。見つめる瞳が、向ける表情が、フラれた筈なのに、さっきよりも間違いなく彼に強い恋心を抱いているように感じた。

すると予想通り、蓮葉(レンハ)様は言う。

「合格じゃ!益々、そなたが欲しゅうなったわ。
まあよい。これから共にする時間でわしをしっかり見ておれ。勝負はこれからじゃ」

さっきよりもイキイキとしてツバサに宣戦布告すると、「今夜は歓迎の宴を開くぞ、準備せい」とおじさんに命じ、「ツバサ、散歩がてら敷地内を案内してやる。ついて来い」と、ご機嫌に鼻歌を歌いながら彼女もツバサを連れて去って行った。

……
…………。