「だから、そなたに提案する。
毎年アメフラシの儀式に回る国の中には、ドルゴア王国も含まれておるのじゃ。ドルゴアは砂漠で雨季が短く少ない故、水不足が難点じゃからな。
つまり、我が蓮華国は小国じゃがドルゴアが逆らい、牙を剥く事はまずない。
そなたがわしの夫なりこの国の主となれば、サリウス王子と同等……。いや、間違いなく優位に立てるぞ?」

それは、もはや交渉だった。
相手を知り尽くし、欲しがる利益を目の前にぶら下げて落とす最高の取り引き。

「知っての通り、我が国は一夫多妻制。本妻の座とわしとの間に必ず1人は子を設けるという掟は譲れぬが、(めかけ)をいくらそなたが迎えようとわしはどうも思わぬ。
その妾の1人に、アッシュトゥーナ家の令嬢を入れる事を許してやろう」

堂々とした物言い、立ち振る舞い。
この少女を国の民が認め、蓮華国を束ねる人物である事が今ハッキリと分かった。
ただの少女ではない。アメフラシの名前で国を盛り上げているだけじゃない。彼女は、この国の頂点だ。
あの瞬空(シュンクウ)さんが、自らの剣と命を懸けて護るに値する人物なんだ。

「どうじゃ?
下剋上とか言うややこしい遠回りの道を選ばずとも、わしと手を組めば……。簡単にサリウス王子に勝てる。
そなたにとって、悪い話ではあるまい?」

すでに勝ち誇ったように、蓮葉(レンハ)様は笑っていた。その表情を見て、瞬空(シュンクウ)さんに負けて以来何処か寂しげなツバサの表情がボクの頭に浮かんで、不安が過った。

……でも、…………。

「ーー必要ありません」

ボクがツバサに目を移すと、彼は少しの迷いもない表情と声で答えた。それに対して蓮葉(レンハ)様はまたすぐに言葉を返す。

「ほう。
わしの力を借りずともサリウス王子に勝ち、自らの力で想い人を護ってみせると申すか。大した自信じゃな」

しかし。
鼻で笑ったようにそう言った彼女に、ツバサは言葉を続けた。