「どうじゃ?そなた、わしの婿にならぬか?」

その様子を見て、ボクはすぐにでも言ってやりたかった。「ツバサにはもう心に決めてる人がいる!」って。

……でも、出来ないよ。
だって相手は、これからツバサが瞬空(シュンクウ)さんとの下剋上再戦をかけた任務に関係する大切な人なんだ。機嫌を損ねたら、任務がなくなってしまうかも知れない。
それに、相手は小国とは言え一国の主。断ったりしたら、ツバサは……、…………。

「ーーお断り致します」

!!っ、……え?

「私にはすでに、心に決めた女性(ひと)がおります」

ーーー…………っ。

ツバサの言葉に、ボクを含めた周りの人達は耳を疑った。

けれど、彼は確かに言った。
真っ直ぐに蓮葉(レンハ)様を見つめて、ハッキリと……。断りの言葉を、言った。

みんな驚くその中で、唯一冷静だったのは意外にも断られた張本人である蓮葉(レンハ)様。彼女は「ほう」と言うと、前屈みになっていた姿勢を正す。
すると、その様子を見てハッと我に返ったおじさんがツバサに詰め寄ろうとした。

「き、貴様!蓮葉(レンハ)様に向かって何と無礼なっ……!」

「よい」

「こんな無礼者、すぐに摘み出しましょう!おい、お前達……」

「ーーよいと言うておるじゃろう!黙っておれっ!」

しかし、おじさんに命じられ衛兵が動こうとするのを止めたのも蓮葉(レンハ)様。さっきまで子供っぽく見えた彼女の雰囲気が、少し変わった気がした。
蓮葉(レンハ)様はおじさん達を黙らせると、再びツバサに言う。

「そなたに想い人がいるのは存じておるわ。アッシュトゥーナ家の令嬢、レノアーノであろう?
そして、そのレノアーノを護る為にドルゴア王国のサリウス王子と勝負中だと言う事もな」

ーー全部、知ってるんだ。

ゴクリッと息を呑む。
蓮葉(レンハ)様はすっかり少女から一国の主の顔付きに変わり、言葉を続けた。