綺麗、だなーー……。

目の前の天使を見て、俺は素直にそう思った。
白金色の容姿は、俺にとって別に特別ではない。生まれてからずっと身近には父さんがいたし、鏡を見れば俺だって白金色の容姿だから……。
でも、目の前の天使は何というか、レベルが違う。透明感があって、触れたら消えてしまう雪のような、神秘的な感じだ。

突然の出会いにただ黙って見つめていると、天使が俺を見てフッと微笑った。その優しい笑顔に胸がトクンッと高鳴り、俺は引き付けられるように一歩踏み出そうとした。その時……。

「ーーそのお方に近付くなッ!!」

「!!ッーー……っ?」

背後に人の気配を感じたのと同時に、太くて張りのある声が俺に向かって怒鳴った。
危ない、と咄嗟に感じて横に跳ぶようにズレて避けると、さっきまで俺が立っていた場所に振り下ろされたのはアンティークの杖。それを振り下ろしていたのは白髪の髪をオールバックにした、黒スーツ姿の老人だった。

「っ、……嘘、だろ?」

その老人を、俺は知っていた。
記憶の怨念から感じ取った声と、その姿。俺の目の前に現れたその人は、間違いなく曾祖父さんのシャルマだったのだ。
死んだと聞かされていた筈のその人物が目の前に現れて、動揺しない人間などいないだろう。

どういう、事だ。
曾祖父さん(シャルマ)が居るって事は、ここは……死者が集まる場所、なのか?

ゾクリッとして、冷や汗がこめかみからつたり落ちる。
その発想が正しければ、俺も、もしかして……、…………。

《ーーお前は暫く黙っておれ》

まさか自分もさっきの激しい頭痛で、いわゆるあの世と言うやつに飛んでしまったのだろうか?
そんな悪い考えが頭を過った俺の中に、再び天使の声が聞こえたと思ったら……。杖を避けた俺を睨み付け、再び襲い掛かって来ようとしていたシャルマが突然飛ばされ、近くにあった本棚に叩き付けられた。
その直後に聞こえる女性の叫び声。

「!……シャルマ様!」

シャルマは衝撃で気を失い、ズルズルとゆっくり床に倒れる。名を呼び、駆け付けた女性は横たわるシャルマを心配そうに見つめながら抱き起こして介抱していた。
長い黒髪の、決して若くないが綺麗な顔立ちの女性。何故か男性用の執事服を身に纏って男装しているようだが、俺の目にはハッキリと女性に映る。