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「……、……。
……っ、…………俺、は…………」

一体どれ位、気を失っていたのだろう。
そんなに時間が経っていない気もするが、正直分からなかった。でも、頭痛は消えている。

「!……え、っ?」

ゆっくりと床に両手を着いて身を起こして、目を疑う。
ここは、書庫だ。
さっき俺がいた部屋、俺が倒れた場所だ。

でも、おかしい。
辺りに、色がない。
床、天井、本棚、そこに並べられている本。全てから鮮やかな色が無くなり、まるで白黒の写真のような灰色の景色に変わっていたのだ。

俺の目が、おかしくなったーー?

そう思って自分の両手を見つめる。
しかし、自分の色はいつもと変わらない。服も、ズボンにも、色はある。

「……どういう、事だ?」

これは、夢の中?
恐る恐る立ち上がり、他に何か変わった所はないか探索を始めた。……すると、…………。

「!……っ、……誰?」

書庫の中央。
アンティークの机と椅子が置いてあった場所で、俺はある人の後ろ姿を見付けた。

白金色の、髪ーー?

その人物は長い白金色の髪を腰まで流れるように伸ばしていた。
そして、俺の声に反応するように、ゆっくりと振り返る。

「……っ?……貴方、は」

ーー……天、使。

問うまでもなく、俺には分かった。
俺の目の前に現れたのは、白金色の瞳に、男性にも女性にも見える中性的な顔立ち。
白い、司祭のようなローブに身を包んだ、天使だった。