胸の中に灯った光が、臆病な俺の心を修復してくれたような気がした。

今なら何でも出来る気がするーー。

俺はズボンのポケットにポケ電をしまうと、別荘を睨むように見つめる。
今日こそ進めなかった場所へ足を踏み入れ、能力(ちから)に関するどんなヒントでもいいから掴んで帰るんだ。
そう心に決めて、再び別荘内へ向かおうとするとーー……。

《ーーツバサ!》

「!……え?」

名前を呼ばれて歩みを止める。
すると、一羽の小鳥がとても慌てた様子で俺の周りを飛び交って言った。

《たいへんたいへん!おねがい、たすけて!》

……
…………。

詳しい事はよく分からなかったが、「こっちこっち」と案内する小鳥の跡を追う。暫く走り、茂みを抜けると、正面に見えた崖の下で「だいじょうぶ?」「だいじょうぶ?」っと言いながら動物達が溜まっていた。
何だ?と、思い、動物達が溜まっている場所まで行き、その取り囲んでいる中心に目をやるとーー……。

「!!っーー……おい!大丈夫かっ?!」

一匹の狸が、大きな岩に下半身を挟まれていた。
おそらく崖崩れに逃げ遅れて巻き込まれたのであろう。

「待ってろっ……すぐに退かしてやる!」

幸いその岩は、人間の俺ならば退かせる程の大きさと重さだった。狸も、まだ息はある。
でも、岩を退けて、俺は思わずゾクリッとしてしまった。

潰された両脚。
おそらく骨は粉々に折れて、出血もまだ止まっていない。
今から急いで山を降りて病院に連れて行っても、命が助かるかわからない。それに、この脚は……。
素人である俺が見ても、もう元に戻らないのが分かってしまう程酷い怪我だった。
自力で生きてはいけない事。それは野生動物にとって例え命が助かっても、絶望を意味する……。

《ツバサ、どうしよう?》
《すごくいたそうだよ……》
《たぬきさんくるしそう。しんじゃうの?》

死ぬーー……?

その言葉が、妙に頭に響いた。
ドクンッ、ドクンッと全身が心臓になったように震えて……。何だか、昔……。まるで似たような光景を見た事があるかのような、錯覚に陥る。

《たす……けて、……》

ーー死なせて、たまるかッ!!

"それ"は自分の心の叫び声なのに、誰かが同時に叫んだようにも感じた。