『ご、ごめんね。驚いたでしょ?
可愛い弟なんだけど、もうヤンチャ過ぎて……』

「いや、全然構わないよ。確かに、ちょっと驚いたけど」

『レオね、ずっとツバサに会いたがってたの』

「俺に?」

『うん!だから、今度家に来たら遊んであげてくれる?』

「……ああ。勿論」

今度家に来たらーー……。

いつになるか、分からない。
もしもこのまま下剋上に(つまず)き続けたら、とてもヴィンセント様が居るアッシュトゥーナ家の敷居(しきい)を跨ぐ事なんて出来ない。
それでも「勿論」って答えたのは、そんな日が来たらいいなという希望の表れだった。

「……ね、レノア。何か、しゃべって?」

『えっ?な、何か……って?』

「何でもいいんだ。聴いてたい、お前の声」

自分でそう言いながら、無茶な注文だと思った。自分が逆の立場で、「何でもいいから話せ」って言われても、きっと困って上手く話す事なんて出来ないだろう。
……でも、…………。

『この間ね、孤児院で夏祭りしたの』

「……へぇ」

『結構、本格的に頑張ったんだよ。
子供達に浴衣着せてあげてね、色んな屋台作って、一緒に遊んだの』

「そっか」

『綺麗な水風船があって、取りたかったんだけどすぐ紙紐が切れて取れなかった〜』

「残念だな」

『うん、残念!悔しかった〜!
……って、子供達より私が楽しんじゃってる感じだよね?』

「実際そうなんだろ?」

『えぇ〜っ?酷い、ちゃんと仕事もしたもん!』

「あははっ、どうだか」

たいした相槌(あいずち)も打てない俺に、レノアは楽しそうに話してくれた。
そして、一呼吸置いて、言った。

『……。
ツバサが居たらな〜って、思ったよ』

「……」

『楽しかったけど、楽しい事がある度にそう思うの』

「……」

『一緒にやりたい事、たくさんあるんだ!』

「……っ」

弾む声が嬉しくて、ほんの少し痛かった。まるで、細い針で心を刺されたみたいな……。
そしたら、その小さな隙間から、思わず本音が漏れた。