《あ〜ウザいウザい!面倒くせぇなぁ〜》
《うっせぇな、あいつ。ヤッてやろうか》
《へへっ、騙されてやんの〜バカが!》

……
…………人間は、怖い。
だって、みんな笑ってるのに心の中では違う事を思っているから。
ザワザワ、ザワザワ、頭の中にノイズが走るように直接入ってくる他人の心の声。うるさくて、気持ち悪い。

だから、家が大好きだった。
同じ血族の父さん、姉貴に兄貴、三人の心の声は聞こえない。
母さんは表面と中身にほとんど違いなんてなくて、裏表がない人で、暖かくて優しくて、安心出来た。
飼っていた猫のリディアとマオ。人間と違ってそのまま、ありのまま生きているから、汚い部分なんて一切なかった。

他の動物もそう。
近所を歩く犬や、空を飛んでいる鳥。
彼らからは汚い感情は全く感じられない。表情と心の声は常に一緒だった。

人間だけだ、うるさくて、嘘吐きで、汚いのは……。

……、……でも。
他の人から見たら、気持ち悪いのは俺の方。
普通じゃなくて、嘘吐いてるのはきっと俺の方。

自分の事も、人間の事も、大嫌いになりそうだった。
……けど、…………。


『ねぇ、どうしていつも眼帯してるの?』

知り合って間もない、仲良くなったばかりの、赤茶色の髪と瞳の女の子。
事情を知らないから、仕方ない。悪気も無く、俺の眼帯を外してしまった。

いやだ、っ……またザワザワがきこえるーー!!

当時は虹彩異色症(オッドアイ)だと言う事に驚かれて不気味がられるより、他人の心の声が聞こえてしまう事の方が嫌でそう思った。
いつも自分にニコニコしてくれているこの子が、醜い事を考えていたらって、怖かった。……でも、…………。

『!……え?ツバサ、虹彩異色症(オッドアイ)だったの?
すごいっ、キレイな瞳!ねぇ、もっとよく見せて!』

《すごく、キレイ……。ツバサ好き!大好き!》

その女の子は、俺の瞳を真っ直ぐ見つめて心の底から『大好き』って想ってくれていた。
それは声と言うより音に近くて、初めて他人の心の声が心地良かった。

その後も、彼女から聞こえてくる音は特別だった。
苦手な甘い食べ物が、その音を聴くと不思議と一緒に食べられて……。彼女の笑顔を見ると、嬉しかった。