「撃ちなさい、ツバサ様。
私の腕を撃って、この状況から逃れてみなさい」

瞬空(シュンクウ)さんの声が、まるで自分に言われているように響いた。

「苦しいでしょう?死にたくないでしょう?
……さあ、撃つのです。その手に力が入らなくなる前に」

「!ッーー……あ、ッ……っ」

喉を締められる手に力が更に込められたのだろう。ツバサは声にならない苦しみを息に乗せて漏らす。
けれど……。

ーー……ガッ、シャーン……ッ!!

まだ意識のある、自分の意志で指の力を抜き、拳銃を地面に落とした。

ダレモ、キズツケタク……ナイ。

それと同時に。
ツバサの声が聞こえた気がして、ボクの瞳から涙が溢れ落ちる。

まるで心がシンクロしたように、ボクには痛いくらいにツバサの気持ちが分かった。
でも、ここは下剋上という戦場。自ら武器を捨て、戦う事を放棄した者に容赦はない。

「……。
それが答え、ですか。残念だ」

瞬空(シュンクウ)さんはツバサを地面に放り投げるようにして解放すると、這いつくばったまま咳き込む彼に向かって曲剣を構える。

「そんな甘っちょろい優しさならば、貴方は何も救えない。
次に目が覚めた時にはレノアーノ様もこの国も、サリウス王子のものとなっているでしょう」

ッーー……!!!!!

危険だ、と。ボクの心が騒ぎ出す。

でも、その瞬間にはもう遅い。
腰に差していた曲剣をもう一本抜いて二刀流になった瞬空(シュンクウ)さんが、あっという間にツバサの間合いに入っていた。

斬ら、れる……!!

本来刀身の部分が親指側にくる持ち方とは違い、刀身を小指側に向けた、逆手に持った構え方。間違いなく、何らかの技を瞬空(シュンクウ)さんが仕掛けてくるに違いなかった。
防御(ガード)も出来ない状態の丸腰のツバサが、今それを喰らったらーー……。
今更遅いと分かりながらも、ボクはその場を駆け出さずにはいられなかった。

けれど、目に映った驚きの光景に足が止まる。