「ま、いっか!とりあえずスープ注文して、また後でお腹空いたら追加すればいいよねっ?」

「!……あ、うん」

「すいませーん!オニオングラタンスープ二つ下さ〜い!」

元気な声にハッとして、俺は頷いて微笑った。
目が合った店員にピースサインのように指を2本立てて注文するジャナフ。彼の明るさにホッとする。

俺は、きっと怖かったんだ。
今まで俺を知る家族や友達は能力(ちから)の事を少なからず知っていて、その上で一緒に居てくれた。

でも、普通はどうなんだろう?
動物や植物と話せたり、死んだ人が見えたり、心の中を覗けるって言われたら……。そんな人間をどう思うんだろう?


同じ一族で能力(ちから)を持っていたある人物は人を操り、その能力(ちから)を使って人を殺めていた事を……俺はかつて叔父さんから聞いてしまった。

俺の父方の曾祖父(ひいじい)さんに当たるシャルマは、本妻である自分の母よりも愛人とその子供を愛した実の父を憎み手に掛けた。
そしてそれ以来人を信じる事が出来なくなった彼は、人を操ると言うその能力(ちから)で強制的に周りの人を従わさせ、支配していたらしい。
絶対服従の能力(ちから)spellbind(スペルバインド)ーで……。

その領域まで行ってしまったら、最早"人"とは呼べないのではないかーー?

その話を聞いた時、身内で能力(ちから)を持つ自分でもそう思ってしまったくらいだった。

……だったら、ジャナフは?
能力(ちから)の事を話したら、もう今のように微笑ってくれないんじゃないか?
一緒に居て、くれないんじゃないか?

そう考えたら、胸が苦しくなってきた。


「……ツバサ、大丈夫?」

「!……えっ?」

「具合、悪い?もしかして、酔っちゃった?」

心配そうに俺を見つめてくれるジャナフ。
俺は心配かけないように……。いや、心に()ぎる不安を誤魔化すように首を横に振って微笑った。