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「ツバサ!一個目の金バッジ獲得、おめでとう〜!」

「ありがとう、ジャナフ」

千秋楽から一夜明けて、港街にあるレストラン。
最初に持ってきてもらったグラスワインを片手に、テーブルを挟んで向かい合って座っている俺とジャナフはカチンッと乾杯をした。
まだまだ目標達成には遠いし、「別にいい」って言ったんだけど「最初くらいお祝いさせて!」って強引に押し通された。

でも。
やっぱり正直、嬉しかったりもしたんだ。
今回の任務が上手くいった裏側で、彼とは本当に良い親友として強い絆で結ばれたと思ったから……。

けど、だからこそ、この後。
この楽しい空間で、俺はふと不安になる事になる。


「今日はお祝いに僕が全部奢るからね!
ほら、遠慮なく頼んでよ〜」

「ははっ、ありがと」

ワインを一口飲んでグラスを置くと、俺はジャナフが渡してくれたメニューを眺める。

「……じゃあ。
この、オニオングラタンスープ頼んでいい?」

「うんっ!」

尋ねるとジャナフはものすごく嬉しそうな表情で頷き、メニューを閉じてテーブルの上に置いてもニコニコと俺を見つめていた。

そして、暫くして……。

「……と?」

「?……と?」

「え?……え?っ……まさか、それだけ?!」

「え?あ、駄目?」

「ダ、ダメじゃないけどっ……。スープだけじゃお腹膨れなくない?」

「え?……そ、そうかな?」

ジャナフの質問に、俺はこの時改めて考えた。
別に体調が悪い訳でも、遠慮している訳でもない。ただ、強いて言うならば"そこまでお腹が空いていない"と言うのが正しい表現だった。

それは俺にとっては普通だった。
少し前まで母さんが作る料理を大量に食べていたけれど、あれは"食べられるけどお腹は別に空いていない"状態。
今も目の前に強制的に料理が並べられれば、残すのは勿体無いと思うから食べるだけで……。俺にとって食事はそれ程重要でなければ、酷い空腹に襲われた事はこれまでの人生でなかった。