私の居場所はこの腕の中【優秀作品】

そうして、2時間ほど楽しく過ごした後、みんなで連絡先を交換しあって、会はお開きになった。

「みくちゃんは、俺が送ってくよ」

そう言った浅野さんは、私の肩を抱いた。

えっ!?

突然のことで戸惑ったけれど、浅野さんもたくさんお酒を飲んでたし、酔ってるのかな?と思うと、振り払うのもためらわれる。

何より、浅野さんは大切な取引先の方だし、こんなことでギクシャクしたくはない。

でも……

「あの、私なら1人で帰れるので大丈夫です。まだ電車もありますし」

送るなら、本来の合コン相手の女性を送ってあげて欲しい。

「そういうわけにはいかないよ。今日はみくちゃんをちゃんと守るって約束で連れて来たんだから。最後までエスコートさせて」

エスコート!?
そんな風に言われたこともされたこともない。

なんだか気分がふわふわして舞い上がりそうになる。

「でも……」

やっぱり取引先の方に送らせるわけにはいかない。

私が断ろうとすると、浅野さんが耳元でそっと囁いた。

「ごめん。二次会とか行きたくないんだ。悪いけど、話、合わせて」

なんだ、そういうことか。

送ってもらうフリをして、駅で別れればいいんだ。

「じゃあ、お願いします」

私はぺこりと頭を下げた。

みんなが席を立つのに合わせて、私も席を立つ。

立ってみて驚いた。

なんだか、自分が少しふわふわする。

これが酔うってことかぁ。

私は、しっかりと足を踏みしめて、ふわふわに流されないようにした。

だから、気分的にはふわふわするけど、傍目にはほとんど変わらなかったと思う。

そんな私を見て、浅野さんは首を傾げる。

「未来ちゃん、お酒弱いんじゃなかったの?」

えっ?

まるでお酒に弱くないのがいけないみたいな言い方。

なんで?

「いえ、味が苦手なんです。ビールとか苦くて……」

この程度の酔いで良かった。

もっとたくさん飲んでたら、お酒に潰れて迷惑をかけることになってたかもしれない。

「そうなんだ。ま、いいや。とりあえず、俺たちは帰ろうか」

そう言うと、立ち上がる時に離した手を今度は腰に回した。

えっ!?

これ、やだ。

肩は酔ってるし仕方ないと思えたけど、腰はなんとなく肩より抵抗がある。

けれど、それを面と向かって伝える勇気は私にはなくて……

結局、されるがまま、席を後にする。

こんなにくっついたら歩きにくいのに、なんでこんなことするんだろう?

でも、店を出てしまえば、終わる。

ほんの1〜2分我慢して、みんなが見えなくなったら、さよならして電車で帰ればいい。

そう思って、我慢しながら、店を出た。