私の居場所はこの腕の中【優秀作品】

そこはお洒落なダイニングバーで、私たちが店に着くと、すでに女性が5人席に座っていた。

えっ? 5人!?

1人来られなくなったから、私が連れてこられたんだよね!?

わけが分からなくて、私は呆然としてしまった。

けれど、誰も何も言わないまま、当然のように席に着こうとする。

「あの、浅野さん?」

私は、後ろから浅野さんのジャケットの裾を引いた。

「みくちゃん、ごめん。本当はさっき、もう1人見つかったって連絡があったんだけど、今さらみくちゃんに『帰って』とも言えなくて。女の子が多い方がみんな盛り上がるから、気にせず一緒に飲も?」

そんな……

気にせず、言ってくれたら、すぐに帰ったのに……

けれど、だからといって、今から「帰ります」と言えるほどの勇気はなくて……

私は、促されるまま、浅野さんの隣に腰を下ろした。

「みくちゃん、何飲む?」

浅野さんに飲み物を聞かれても、こういうお店で何を頼めばいいのかよく分からない。

そもそも、私は苦いのが苦手で、ビールなどもあまり好きじゃない。

「ごめんなさい。私、実はお酒が苦手で……」

ジュースでもいいのかな?
桜庭さんや社内の人と飲みに行く時はいつもジュースなんだけど……

私は、メニューの隅にソフトドリンクとしてジュースが並んでいるのを見つけた。

「グレープフルーツジュースを」

私がメニューを指さすと、浅野さんは笑顔で答える。

「乾杯だけ、お酒じゃダメ? これなら、グレープフルーツジュースとほとんど一緒だから」

浅野さんが指さすのは、ソルティードック。

確かに、お酒を飲む人からしたら、1人素面の人間が混ざってるのは、気分のいいものじゃないのかもしれない。

「じゃあ、それを」

私はそう言って、勧められるまま飲み物を決めた。


飲み物や料理が届くと、みんなで乾杯をして合コンが始まる。

自己紹介をして他愛のないおしゃべりを始めるけれど、誰が誰を狙っているのか分かりやすくて見ていておもしろい。

「みくちゃん、どう? それなら、飲めるんじゃない?」

浅野さんは、笑顔で話しかけてくれる。

「はい。おいしいです」

ほんとに、ジュースみたい。

私は、話しかけてくれる浅野さんに相槌を打ちながら、おいしいお料理と今日初めて知ったソルティードックを楽しんだ。

グラスが空になりかけると、浅野さんはメニューを手に尋ねる。

「次、どうする? 大丈夫そうなら、こっちはオレンジジュースみたいだし、こっちはほぼジンジャーエールだよ」

私は、勧められるまま、今度はスクリュードライバーを頼んだ。