私の居場所はこの腕の中【優秀作品】

その日、夕刻までそこで作業をした私たちは、そこで別れる。

「佐々木さん、本当に大丈夫?」

最後まで心配しながら、桜庭さんは帰っていった。

私は、浅野さんと会社のロビーへ向かい、そこで他の男性社員の方と合流した。

「いつもうちに来てくれてる佐々木未来ちゃん。みくちゃん、こいつら、俺の同期。みくちゃんより3つ年上かな? 左から、佐藤、山内、小谷、樋口」

「はじめまして。佐々木です。よろしくお願いします」

そう挨拶するものの、いきなり4人も覚えられない。

「みくちゃん、かわいい〜! こんなにかわいいのに彼氏いないの?」

そう言って顔を覗き込んでくるのは、1番左の佐藤さん。

社会人になってまず気づいたことは、男性は必ずお世辞から入るということ。

女性を見たら、とりあえず、かわいいって言っておけばいいと思ってない!?

「はい、いえ、あの……」

例えお世辞だとわかっていても、褒められると、なんて答えていいか分からなくて、うろたえてしまう。

困った私が視線を送ると、浅野さんが口を開いた。

「お前ら、みくちゃんは俺のだから、手を出すなよ」

えっ!?

驚いて浅野さんを見上げると、浅野さんはこちらを見ていたずらっぽく笑う。

そうか!
私を守るって、こういうことかぁ。

浅野さん、私と何かあるフリをして他の人から構われないようにしてくれてるんだ。

そのことに気づいた私は、少しほっとして、肩の力が抜けた。

「はぁ!? それは、ずるいだろ! みくちゃん、浅野と付き合ってるの?」

佐藤さんに迫られて、私は、思わず、後ずさってしまった。

「いえ、そんなことは……」

こういう時に上手に嘘をつければ、楽なんだろうけど、とっさに嘘をつけるほど、私は話し上手じゃない。

「じゃ、みくちゃん、誰のものでもないんだね? よし、楽しみになって来た! さ、行こうぜ」

佐藤さんはご機嫌でみんなを促して店へと向かう。