「ベースカバーが遅い」


実戦を想定したメニューの後、勇翔が後輩に指導するのが聞こえた。


“ほんの少し前に入ってきたくせに”


なんて思う人間はここにはいない。


勇翔は、驚くほど早く自分の立ち位置を確立していた。


彗星のごとく現れた救世主。


そんな勇翔を中心に動き始めている。


「勇翔さんってとんでもない化け物ですよね」


菜々子ちゃんが感服したように笑う。


「昔から才能の塊だったからね…」


それでいて猛烈な努力を積んでいるんだから、化け物が生まれるわけだ。


それに、今の勇翔は蒼空の夢を背負っている。


だからこそ、無敵だ。


暖かい日差しの中、汗を流して駆け回る勇翔。


誰よりも声を出して、チームを引っ張ろうている。


冷めたように世間を見、野球を遠ざけていた勇翔はもういない。


「…勝てる。勝てるよ、絶対」


勇翔を信じてる。


絶対に蒼空を甲子園に連れていける。


もう一度、蒼空の笑顔が見たい。


1番輝いている最高の場所で、誰よりも眩しい笑顔の蒼空が見たいんだ。