「ただ夢を叶えたいだけだ。他の何を犠牲にしてもいいくらい、甲子園は俺の夢なんだよ。簡単に夢を捨てたお前には一生かけてもわかんねぇだろーな」


そう鼻で笑うと、勇翔は嫌悪に満ちた顔をする。


「病気の体を酷使してまで叶える必要がある夢なんてねぇよ。そんな夢、夢じゃない。諦めてさっさと治療に専念しろ」


偉そうな口利きやがって。


余計なお世話だっつーの。


「お前なんかに指図されてたまるか。二度と口出しするな」


「お前が死んだら周りの人間はどうなるんだよ」


「んなの死んでから考えればいーだろ?」


夢を捨て、その行為を俺にまで強要してくる勇翔に腹が立ち、テキトーに答える。


すると勇翔は意外にも口調を荒げた。


「それじゃ遅ぇんだよ!夢よりも大事なものもあることに気づけよ!」


「それはお前の考えだろ。俺に押しつけてくんな」


なんでこんな奴に説教されないといけないんだ。


俺は誰が何と言おうと野球を辞めないし夢を追い続ける。


「二度と口出ししてくんな」


共に夢を追った戦友は、ライバルは、もういなかった。


ただの口うるさい男になっていた。


苛立ちに紛れて見え隠れする喪失感に気づかないフリをして、俺はその場を立ち去った。