「あたし、妹がいるんだけど」
「……は? 何の話?」
「妹の話。そういえば君の制服と同じガッコだったなあ、と思って」
俺と同じ、北高?
オネーチャンな彼女も、北高だったのかな。まあ、どこでもいいけど。
「で、妹がどうしたん?」
「まあ、ぶっさいくなのよ」
「はあ」
「見た目も、中身も。やばいよね。……でも並のやさしさはあるから友だちはたくさんいるみたいで、この間の体育祭のことを何度も何度も話してきてさ。この子はこうやってなんだかんだ楽しくやっていきそうだな、って思ったら、姉ながらほっとしちゃって」
「よかったじゃん」
「うん。……だから、仕事辞めてきた」
「そう」
そっと筆が爪を離れた。
「…………え!?」
「はい、ネイル終わり」
立ち上がるついでに額を小突かれた。
痛くない。けど、痛い。
ドクンッ、て、心臓がうっさい。
「辞めた……? な、なんで……」
「学校で妹と会ったらよろしくしてやって」
それは、別れの挨拶ってやつだ。
置き土産だけちゃっかり残して、俺だけ忘れらんなくさせておいて。
もう、会えない?
ひどすぎる。
「なあ! 待って……!」
女々しい引き止め方だな、我ながら。
ネイルしてもらったばっかりなのをおかまいなしに、彼女の細い腕をつかみかかった。
赤いリップがゆるりとほころぶ。
「やめときな」
「え……」
「あたしに惚れてもいいことないよ」
一瞬。
あんなにうるさかった心臓が、止まった。
気がした、だけ。
「そ、いうの、自分で言っちゃうんだ」
「だって、言わないと惚れちゃうでしょう?」
……ずりぃ女。
「……そう、かも、ね」
もう遅いよ。
必死に口角を上げながら、ゆっくり手をほどいていく。
それでも彼女はやすやすと笑っていて。
ムカつくからメイクよれてはげろ。
その皮の下がどれだけうわさのイモウトと似てても、いいから。俺は、なんだっていいから。
なあ。
「じゃあね」
いいことない、なんて、端から知ってたよ。



