「高橋くんひさしぶりだね」
「……ん」
「あれ以来、お店来てくれなかったもんね」
「予約取れねぇし」
「それもそっか」
あれ。俺、なんか熱くね? おかしいな。
「手、傷ついてんじゃん」
「っ、」
「ちょっと爪はよくなってるのに、もったいない」
ほんと、心臓に悪い。
なにげなく手が触れた。
わざとらしく傷口を撫で、爪の表面をさすり、こそばゆさを誘ってくる。
「ネイル、してあげよっか」
「……できんの?」
「奇跡的に道具あるからね。やったげる」
血が、沸騰しそうだ。
マニキュアでいい? と聞かれ、うなずくしかできない俺は最高にダサい。
彼女に笑われたけど、そっちのほうが救われる気がする。
「この傷どうしたの」
ひんやりとした感触が、指先をもてあそぶ。
色は、濃いピンク。
前のを覚えててくれてたんだ。ふーん。ふーーん?
「ねぇ、聞いてる?」
「えっ、なに」
「傷」
「あー……白雪組の残党に追いかけ回されてた」
「…………」
「……あ、白雪組って知ってる?」
「……知ってる。アレでしょ、あのやばいヤクザ」
白雪組。
名前だけはちょっとかわいいよな。
中身はなかなかにやべえらしいが。
悪い子だとそういうヤツらといろいろあって。
俺を追いかけ回してたのは、正しくは、やべえヤクザの白雪組を追放された、さらにやべえ連中なんだけど。
「君も大変そうだね」
なんでだろう。
自分がコドモだって痛感させられて、なんか、やだ。



