ニュアンスで覆われたネイルは、とうの昔に砕け散った。





「チッ、あんのカマヤローがっ!」

「どこ行きやがった……!!」



「……誰が教えっか、バァカ」



は、と吐く息が、ほのかに白んでいく。


静まり返った、深夜の公園。
日付が変わった。

ギシリ、ベンチに圧をかけたとたん、体の力が抜けていった。



「だああーーー疲れたーーー」



とか言いつつ。

脈拍は、至って、正常。



「あ、やべ。傷ついちまってんな……」



手の甲に、月明かりの差す。


なんとなく磨いた生爪は、薬指と小指だけ欠け落ち。

うっすら浮かぶ紫の血管にそって、かすり傷がひとつ、ふたつ、みっつ。



「……よっつもあんじゃん」



最悪。
アイツらめ。


……いや、アイツらじゃねぇか。

殺り合って、めんどうになってあちこち逃げてるときに、いろいろぶつかったんだった。ハハ、八つ当たりしちった。ワロタ。




「なに笑ってんの?」



死んだように笑ってたら、突然、なんか現れた。
突然。またしても突然。

彼女が、俺の目の前に、いた。



「え……あ……」

「不審者ですかー?」

「ちが、」



舌が回らない。

寒いせいだ。夜は冷えるから。だから。


あの黒い髪が、きれいに見えるのは。


別に。ふつうのこと。



「か、影野さんこそ」

「ん?」

「こんな時間にこんなとこで何してるんすか」

「飲み会の帰り」



酔ってるようには見えないけど。

彼女はごくごく自然に隣に座ってきて、ドク、ドク、と心臓に血が走ってきた。