心臓が、ドクン、と跳ねた。





「あ、影野(カゲノ)さん、お願いできる?」

「はい、いいですよ。ちょうど今空いたので」



駅の近くにあるネイルサロン。
やっと予約の取れた人気店。


そこで、俺はなぜか、後悔した。



「彼女、新人だけど腕は確かなのよ。安心してね。マナーはよくないかもしれないけど」

「ちょっと店長ー!」

「あら聞こえちゃった? ふふっ」



一度面識のある店長は、上品に笑いながら、俺を個室へうながした。



半個室の室内。
白いテーブルをはさんで、同じ色の、同じ木のイスがふたつ。


俺の目の前、近い距離には、影野という女性。



高橋(タカハシ)……えっと」

(マユ)です」

「ああそう、高橋 繭くん、ね。今回がはじめて?」



はじめて、目が合って。

心臓が、また、ドクンと跳ねる。


はじめてです、と口に出してみれば、一段と脈が乱れていく。



「高3なんだね、君」

「え、なんで知って?」

「コレ」



ひらりと白い紙を見せられた。

ああ、なんだ、びっくりした。最初に書いたアンケートみたいな、診断みたいなやつか。



「ま、知ってたけどね」

「えっ」



「君、有名だもん。

――悪い子の、高橋くん」