「根暗マサシ」


2年A組の教室内から聞こえてきた声にマサシはピクリと肩を震わせた。


だけど声がした方を向いたりはしない。


そんなことをしたら自分の悪口を誰が言ったのかわかってしまうから。


マサシはなにも聞こえないふりをして文庫本に視線を落とす。


大好きな冒険小説を読んでいる最中だけれど、さっきの『根暗マサシ』というひとことが気になって文章が頭の中に入ってこなくなってしまった。


マサシは内心大きなため息を吐き出した。


読書に集中できなくなってしまうと、休憩時間にやることはなくなってしまう。


それでも顔をあげて誰かと視線がぶつかるのが嫌で、本を読むフリを続けるのだ。


教室の後方からはクスクスと女子たちの笑い声が聞こえてくる。


それはもしかしたら自分のことを笑っているのかもしれない。


窓辺で固まっている男子たちはさっきから自分の悪口を言っているのかもしれない。