クニヒコは恐る恐るそちらへ足を向けた。


部屋の間取りはみなれたアパートのものだけれど、置かれている家具や部屋の雰囲気は違う。


1年前にここに暮らしていた人のものが、そのまま見えている。


「こっちからか?」


タカシの声がして、部屋に続く襖が開かれた。


同時に強い獣臭を感じてクニヒコは顔をしかめて、手で鼻を覆い隠した。


「ひどい匂いだ」


「匂い? どんな匂いがするんだ?」


「獣の匂いだよ。その押し入れの中からしてくる」


猫たちの鳴き声も大きくなり、カタシが押入れの中を確認しようとしたそのときだった。


玄関が開閉する音が聞こえきてクニヒコは息を飲んだ。


「どうした?」


「今、玄関が開く音がした」


「僕はなにも聞こえなかったぞ? ちょっとまってろ、確認してくるから」


タカシが早足に部屋を出ていく。


ギシギシとアパートの中を歩く足音が聞こえてきてクニヒコは身構えた。


「やっぱり誰も来てないぞ?」


首を傾げながら戻ってきたタカシにクニヒコは絶句してしまった。


キョトンとした表情のタカシの後にぴったりくっつくようにして見知らぬ男が立っていたのだ。


男は黒いサングラスと帽子、そしてマスクをつけていて顔が見えない。


それでも異様な雰囲気を感じて体中から汗が吹き出した。