アパートの部屋の前まで戻ってきたクニヒコは一旦はずしていたネガネをカバンの中から取り出した。


隣にいるタカシへ視線を向けると、大きく頷かれた。


ここまで来たらやるしかない。


クニヒコは覚悟を決めてメガネをかけた。


途端に周囲の様子が変化すると思っていたが、目の前にあるのはアパートの扉から変化がなかった。


メガネに表示されている日付を確認してみると、ちょうど1年前になっている。


隣の部屋のカオリさんが言っていた、事件があった時期を同じだ。


クニヒコはゴクリと唾を飲み込んで玄関ドアを開く。


母親は買い物にでかけている時間帯なので、部屋の中には誰もいない。


だけど部屋に入った瞬間猫の鳴き声が聞こえてきてクニヒコは足を止めた。


「どうした? なにが見える?」


「いやまだなにも見えない。だけど、猫の鳴き声がする」


それは自分の部屋から聞こえてきているようだった。