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一歩外へ出ると沢山の視線を感じた。


そのどれもが女子生徒や女性からの視線で、時折「かっこいい」とか「あの人見たことがある!」と囁かれる。


そう言われるたびにマサシは背筋が伸びる気持ちだった。


ヒデアキはずるい。


ずっとこんな景色の中で生きてきたなんて、自分とは大違いだ。


今までの地味で暗い生活を思い出すと胸の奥が苦しくなった。


こんなに華やかな生き方があるなんて、今までずっと知らなかったんだ。


「ただいま」


いつもどおり玄関に入ってリビングまでの廊下を歩き出したとき、玄関先に自分の通学靴が置かれていることに気がついた。


あれ、と思って立ち止まるとリビングのドアが開いて自分が出てきた。


一瞬悲鳴を上げそうになったが、相手がヒデアキであることを思い出して、悲鳴を飲み込んだ。


「ここに帰ってきちゃダメだ。俺の家を教えるからそっちに帰ってくれ」


ヒデアキは震える声でそう言い、住所を教えてくれた。


「あ、そっか……。よくこの家がわかったな」


「帰る方向は同じなんだ。何度かこの家に入っていくのを見たこともあった」


そうだったのかと思い住所を確認してみると、ここから5分ほど歩いた場所にある家だとわかった。


「赤い屋根の家だから、すぐにわかると思う」


「わかった。じゃあな」


マサシは軽く手をあげて家から出たのだった。