「それはどういう意味?」

「いや、だから……こんなことをされているのに、その……あまり動揺している様子がないっていうか……」

 ロイに言われて改めてエリスは自覚した。今回のようなあからさまな嫌がらせを受けているにも関わらず、エリスは冷静であった。

(婚約者を娼婦に寝取られて、一家離散したことに比べれば、大抵のことには動じなくなるわ……)

「生きていれば、もっと酷い目に遭うことだってあるよ。ところで、どうしてここに教科書が捨てられていることがわかったの?」

「実は、僕も同じことをやられたんだ」

「え!?」

「うん……」

 ロイはぽつりぽつりと語り始めた。



「この学校では、生徒同士の人間関係に影響が出ないように、自分の出自について言及することは禁止されている。でもね、そんなことをやっても無駄なんだ」

「そうなの……?」

「僕みたいに、飛び級で入ってきた人間なんて特にね」

「えっ、飛び級!?」

 エリスはすっとんきょうな声を上げた。

「言ってなかった? 僕、今、十三歳なんだ」

 初めてロイを見たときから、幼い感じがするとは思っていたが、まさか十三歳だったとは考えもしなかった。

「飛び級で、しかも学費免除で入学してくるくらいだもの……訳ありなのはすぐわかる。みんな出自を隠していても、この学校に入れるのは、王族か、それなりに名のある貴族だってわかっている。庶民もいるけど、桁違いの大富豪とかね。そもそも学費が払えない連中じゃない」

「……」

「だから目障りなんだろうね。僕みたいに特別扱いされて目立つ人間は。君もそうだけど」

「僕も?」

 エリスは信じられない、と言った口ぶりでロイに尋ねた。

「目立ちっぷりだけ見たら、僕以上かも。特別室もそうだけど、一番はルーイ兄さまのことだろうね」

「生徒会長のことって言っても……試験の時に、ちょっと顔見知りになった縁で話しかけられたってだけに過ぎない。それって嫌がらせを受けるようなことなのかな?」

「この学校の生徒にとって、ルーイ兄さまは単なる生徒会長の枠を超えた特別な人なんだ。みんながルーイ兄さまに憧れてるし、話しかけてもらいたいと思っている。それを入ってきたばかりの新入生が、あっさりとやってのけたんだよ。あーあ、うらやましい! 僕もルーイ兄さまにあんな風に親し気に話しかけられたい!」

「……ロイは生徒会長のことが本当に好きなんだね」

「うん! ルーイ兄さまは僕の恩人だから……」

「恩人……?」

 ロイがルードヴィッヒに心酔している理由は、ここにありそうだった。