先に家について、しばらくするとまた例のあのバイクの音がした。やがて河原塚さんが片手にはヘルメット、片手にはスーツケースを持って玄関へ入って来た。やはり、何度見ても慣れない格好だ。


「ではでは、改めまして、河原塚成です!これからよろしく!あ、俺のことは下の名前でいいからな。」


180は軽く超えていそうな長身。バランスの整った体。レザージャケットにバイクのヘルメットまで、どう見てもこの人が入居家政夫だとは信じがたい…。いや、もう仕事を一度しているし、疑いの余地はないのだけれど。


「えーと、こちらへどうぞ。使う部屋を案内します。」

「そんなかしこまらなくていいって。さっそくお邪魔しますー!」


テンションの高い家政夫さんは彩響の後についてくると、早速目に入るリビングの風景に一瞬足が止まった。また以前のように回復(?)してしまった汚いリビングで、彩響はちょっと恥ずかしくなり、それなりの言い訳を並べた。


「仕事が忙しいので…でいうか、それがあなたを雇った理由でしょ?」

「いや、まあそれはそうだけどな…まあ、とりあえずあの部屋でいいんだな?ちょっと行ってくるよ。」

「あ、じゃあお茶でも用意します。」


河原塚さんが部屋に入っている間、彩響はとりあえずお湯を沸かした。じっと待っていると、ふとムカッとしてくるのを感じる。


(あれ、なんかおかしくない?お金を払うのは私なのに、なんで言い訳しているの?どれだけ汚くても片付けるのが向こうの仕事で…)


「お茶なら俺が入れるよ。」

「う、うわあああー!!」

「あ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。俺が入れて持っていくから、とりあえずソファーに座りなよ。」


いきなり声をかけられ、彩響は驚いて一歩後ずさる。早速ジャケットを脱いでエプロンをつけた河原塚さんが、湯呑にお湯を注いでくれた。

さっきからなんだか彼のペースに巻き込まれているようで、気が晴れないが、とりあえず彩響は言われるままソファーに座った。お茶を持ってきた河原塚さんが隣に座り、やっと本題が始まろうとしたが…堂々と周りを見回すその視線にどうしても我慢ができなくなってしまった。


「あの、さっきも言いましたけど、仕事が忙しいので掃除する暇がないので。」

「まあ、そうだろうね。じゃないと流石にこんな倉庫のようにはならないでしょう。」

「…さっきから私の状況を指摘するようで、大変気に障りますけど…?」


彩響の言葉に彼が視線をこっちへ向けた。イライラしている彩響とは真逆に、彼はとても機嫌が良いように見える。ニコニコしながら、変わらないトーンで喋りだす。


「ごめん、非難するとかそういう意味ではないんだ。ただ勿体ないと思って。」

「なにがですか?」

「あんた、きっとこの家にお金結構使ってるだろう?なのにこんないい家に対する態度とか、愛情とかが全然無い気がして。」

「愛情って…そもそも、ほぼ寝るだけの場所ですよ?私がどれだけ仕事しているか分かって言ってます?」

「そんなに長く辛く働いて稼いだお金を無駄使いしているとは思わないの?もうちょっと家に愛情ももってあげたらどう?」