その人は、待ち合わせの5分前に現れた。


そんな俺は、待ち合わせの10分前から来ている。


それは、とある喫茶店。


「今日は時間作ってくれて、ありがとう」


「あ、いえ。
こちらこそ遠い所御足労頂いて」


俺は椅子から立ち上がり、その人に軽く会釈する。


以前、この人に一度会った時に名刺は渡していたので、
改めて名乗る事もない。



「相談というか依頼は、電話で話した通りなんだけど」


その人物、海宝久志さんは、向かいの席に座るとそう切り出して来た。

俺も同じように、腰を下ろす。



「ええ。昔のお客さんに、訴えられてると?」


この人は元ホストで、
その時の源氏名はナツキ。


この人と俺は全く関わりがないのだけど、
共通の知り合いが何人か居る。


彼は、篤や、篤を通して仲良くなった村上君と繋がりのある人物。


「そう。けど、急にごめんね。
篤君の結婚パーティーの時、滝沢君に名刺貰ってたのを思い出して。
どうせなら、多少知ってる人に相談しようと思って。
それで、ケイに滝沢君の事訊いたら、けっこう優秀な弁護士だって」


「いえ。そんな事ないですよ」


俺がそう軽く返すと、海宝さんはフッと笑い、近くに居たウェイトレスにアイスコーヒーを頼んでいた。


それにしても、息を呑んでしまう程綺麗な顔だな、と、ついつい見惚れてしまう。


村上君から、この人のホスト時代の伝説は色々と聞かされたけど。