LOVESS

「滝沢君とは、もっとゆっくりと話したいのだけど、そろそろ俺帰らないと」


海宝さんの視線の先の左手には、
G-SHOCKがはまっている。


「S県ですよね?
こちらには、新幹線で来られたんですか?
それとも、車?」


「車。
新幹線乗る迄、けっこう乗り継ぐから面倒でね。
妻には、俺、まだ仕事って事になってるから。
今日、半休取ってて。
帰り、道混んでなきゃいいんだけど…」


帰りの長時間の運転の事を思ってか、
溜め息を付いている。


「車の走行距離で、奥さんに怪しまれないです?」


その問いにも、特に表情は変わる事はなく。


「大丈夫。
レンタカーだから」


そうさらっと言われる。


この人の事は、村上君から色々聞いてるけど。


俺も、ちょっと憧れてしまいそう。



「えっ…」


そう声が漏れたのは、こちらに向かって篤が歩いて来たから。


篤も俺に気付き、俺と同じように驚いている。


目の前の海宝さんは、ニヤリ、と笑った。