そしたら日向は「ココアね。了解」と百円を入れ、ココアのボタンを押した。

「ほら、ココア」

 そう言ってココアの缶を手渡してくる笹野の手に触れると、ちょっとだけドキッとした。

「……あ、ありがとう」

「お前、今も好きなんだな?ココア」

「え?」

「警察学校時代も、お前よくココア飲んでただろ?」

 そう言われてわたしは、ココアのプルタブを開けながら「そうだっけ?」と答えた。
 だけどその時、わたしは日向がわたしがココアが好きだったことを覚えていてもらえて、すごく嬉しかったのだ。
 こんなこと、日向の前で恥ずかしくて言えないけど……。

「なぁ、笹野」

「え、何?」

 そう言って振り返ると、日向はわたしに「笹野って……。今付き合ってるヤツとかいるの?」と問いかけてきた。

「え、何で……?」

 と聞くと、日向は「……いや、別に」と返してきた。

「そっか。 ココア、ごちそうさまでした。……じゃあわたし、行くね」

 そう言ったわたしは、ココアを飲み干した缶をゴミ箱に捨て、立ち去ろうとした。

「笹野、あのさ」

「え?」

「……いや、やっぱ何でもない」