「忘れなくていい」

 日向は優しいから、そう言ってくれる。

「……え?」

「忘れなくていい。……その悲しみの数だけ、笑えばいいんだ」

 日向のその言葉は、妙に説得力があって、前向きになれそうな気がした。

「……日向」

「刑事なんてそんなもんだろ? 世の中はそんなにうまくいくものじゃない」

「……うん」

 悲しみの数だけ、笑えばいい……か。それは日向も、同じような環境だったからかもしれない。
 
 日向の父親は元々、警察官だったそうだ。日向は父親が警察官だったこともあり、昔から警察官に憧れていたそうだ。
 自分も警察官になるんだという夢を、持っていた日向は、その父親の背中をずっと追っていた。

 だけど日向が中学生の時、日向の父親が凶悪事件の犯人を捕まえようとした時に、共犯であったもう一人の犯人に心臓を深く刺されてしまい、重症を負い……。殉職したそうだ。
 日向はそんな父親の姿を間近で見ていたそうだ。……いつか父親の仇を取りたくて警察官になったのだと、警察学校時代に言っていた。
 そんな日向の想いを知っているからこそ、やり切れない気持ちがあるのだろう……。