わたしはその日、日向と付き合うことになった。 

「門野さん、すみません。……わたしやっぱり、門野さんとは付き合えません」

 その翌日、わたしは出勤してきた門野さんを呼び出して、そう告げた。

「……笹野」

「門野さんの気持ちはとても嬉しかったです。……正直に言うと、すごく揺れてしまいました。一瞬でも、門野さんとなら幸せになれるかもしれない。本当にそう思いました。……だけどわたしは、やっぱり日向のことが好きなんです。 日向じゃないと、ダメなんです……。だから、門野さんとは付き合えません。すみません」

 わたしの正直な気持ちを伝えると、門野さんは残念そうに笑って「そうか……。やっぱり俺じゃ、ダメなのか」と言った。

「……すみません」

 出来ることなら、門野さんにこんな顔、させたくなかった……。
 その顔を見るだけで、苦しくなるし、切なくなるから……。

「仕方ないさ。……笹野の選んだ人だしな」

「……門野、さん」

 どうして門野さんは、こんな時までわたしに優しくしてくれるのだろう……。
 そんなに優しくされたら、申し訳なくなるのに……。